昨年4月、改正学校教育法・国立大学法人法が施行され、国立大学の意思決定の一切を学長に委ねる集権的ガバナンス体制への移行が明示化されました。改正の要点は、学長選考会議の役割について、学長に求められる資質・能力などの選考基準を明確にし、学内教職員の意向投票の結果に拘束されることなく、学内外の候補者から主体的に選考するものと明記した点にあります。
しかし、86ある国立大学法人の学長の大半が学内から選考されています。専門分野別に見ると、医学が断然多く、工学がそれに次ぎます。人文社会学系の学長はごく少数にとどまっています。法人化前までは、学長は学内教員による選挙で選ばれていました。医学部には附属病院があり、看護師をはじめ多くの職員と助教がいます。工学部もまた、高度成長期に肥大化したせいで多数の教職員を抱えています。医工学部のいずれかに属する候補者が意向投票で最多得票し、学長に選考されることが多くなる構造にあります。このような医工両学部出身の学長が圧倒的に多いという現状は正常な状況には思われません。
全学的視点で選考する意識改革の徹底を前提に投票を行うことが望ましいと思われます。慶應義塾は開学以来、工学部の出身者が塾長になったことはありましたが、医学部出身者は皆無です。医学部出身者に、現在学長に求められる資質や能力を有する人が集中しているとも思われません。これも一つの塾の見識なのかもしれません。
(2016年3月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)
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