赤ちゃんポストに憶う

 赤ちゃんポストは、様々な事情により新生児を育てることができない親が、子どもを病院の外部から院内の保育室に預けられる設備のことをいいます。日本では、これまで熊本市にある慈恵病院がこのシステムを採用しており、「こうのとりのゆりかご」と呼んでいます。2007年に設立されました。このたび関西の医療関係者らが、神戸市内の助産院に赤ちゃんポストを新設する方針を明らかにしています。嘱託医を確保し、医療法に基づく施設の変更許可を市に申請する予定です。認可されれば国内2例目となります。
 設立の目的は、赤ちゃんの殺害と中絶から守ることにあります。特に新生児は外界の変化に対応する適応能力が低く、置き去りなどによる低体温症や熱中症といった危険から守るために設置されています。熊本市の検証報告によれば、2007年から2015年度までに計125人の乳幼児を受け入れています。身元が判明した親の居住地は、熊本県内だけではなく、関東、近畿や北海道など全国にわたっています。
 赤ちゃんポストは、保護責任者遺棄罪など関連法令に抵触するとの議論もありますが、厚生労働省は、熊本市のゆりかごについて現行法に違反しているとはいえないとの見解を示しています。母親が望んでいなかったり、計画していない妊娠によって生まれた子どもの虐待は、途絶えることがありません。赤ちゃんポストの存在は、困窮した母親による遺棄や虐待を防ぐ一定の効果はあると思います。しかし、一方で匿名による赤ちゃんポストによる子どもの受け入れは、安易な利用につながりかねないとの指摘もあります。現時点では、子どもを受け入れる前に相談できる体制も十分ではありません。出産や育児をためらう親が、真っ先にポストに頼らないよう、国や自治体は公的給付や養子あっせんなどの支援策を充実させることが大切です。
 赤ちゃんポストに預けられた子どもは、実親の合意があれば子の福祉を考え、早い段階で養子縁組がなされます。その場合、親が匿名で特別養子縁組がされることが多くなっています。親の同意がない場合は、いったん児童相談所の配慮で乳児院に移されることになります。病院での医療費や子どもの生活費などは、熊本市の場合は国と自治体が折半する形で支給されています。
 赤ちゃんポストという呼称は、賛成、慎重双方の立場から違和感が表明されています。郵便ポストのイメージがあり、赤ちゃんを郵便物のような物として扱うように思えるところがあります。「こうのとりのゆりかご」とかイタリアで呼ばれているような「命のゆりかご」が望ましいと思われます。生まれた子どもの虐待や育児放棄を防ぎ、望まない妊娠による中絶を回避し、子どもへ生きるための選択肢が広がる上でも、赤ちゃんの命を守ることは大切であると思います。

(2017年2月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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